第一章:物置のナイフ(4)
「!!!!」
私は、精一杯の悲鳴を上げたつもりだったけど、声が裏返ってしまい、私の咽は音を発していなかった。
「逃げろ、エル!」
やっとヤトはそう叫び、私の所に駆け寄ってくる。
人の様な姿。しかし、顔は醜く、豚の様な顔をしている。手には棍棒をもって…
「オーク…」
一瞬、唖然とする私。でも、すぐに我を取り戻して、ヤトと一緒に一目散に走り出した。
「またこれかよっ!だから森はやだって!!」
文句を言いながらも走るヤト。
「だいじょーぶだって!オークはそんなに走るの得意じゃ無いからっ!」
私も走りながら、ヤトの文句に返事を返す。
「はぁはぁ…これがグリズリーとかだったら、もう追いつかれてるよっ!」
負けじとヤトが返してくる。
「グリズリーなら、死んだふりするのよっ!…はぁはぁ…」
お互い、息を切らしながらも、言い合いを続ける。
オークなら、追いつかれる事も無いし…それに、そろそろ、諦める頃だろう。そう思って、走りながら後ろを振り返った瞬間…
「ぶっ!!」
突然、隣を走っていたヤトは変な声を出したかと思うと、目の前で転ぶヤト。
幸い、オークはとっくに諦めた様で姿も形も見えなかった。私はその場に止まって、腕を腰に当てて仁王立ちをして、ヤトに向かって言った。
「なぁにしてるのよ、転ぶなんて!相変わらずどんっくさいわねぇ。」
「む…ぶ…むぅぅ…」
「?? どうしたの?」
ヤトはその場でじたばたしている。不思議に思ってヤトに近づくと、見事にヤトの頭にスライムが巻きついていた。
「ぶっ。ククク…」
笑っちゃダメなんだけど。苦しそうにじたばたしてるヤトが可笑しくて、それにスライムならたいして怖くはないし。一人の時に襲われるととても危険だけど、二人の時なら火を近づければ、すぐに離れる。
「ちょっと待ってなさいよ~。」
そう言いながら、マッチを探す。
「あれ??」
……無い!どうも、さっきオークから逃げる時に落としたらしい。
「あ~~どうしよっ;無いよ、火が無いよ…」
慌てる私。でも、そうしてる間にもヤトが窒息してしまう。どこを探してもマッチが見当たらない。
もう、ヤトも限界っぽい。考えてる間にも、時間は過ぎていく。私は、ふと持ってきたナイフに気がついた。でも、スライムは痛覚が無いのか、今からナイフで倒そうとしても時間が掛かってしまう…
でも、他に方法が無い。そうと決まれば、急がなければ…
力を入れすぎると、ヤトの顔まで傷つけてしまうし、かといってノンビリしてる暇は無い。
ブスッ。
ナイフを鞘から抜くと、思い切ってスライムに刃を突き立てた。
その瞬間、ナイフが光ったかと思うと…スライムは見る見る小さくなって行くのが見えた。