第一章:物置のナイフ(3)
「どうする? まさかそんなナイフを使って、傷でもつけたらえらい事だぜ。」
「う…ん。」
「とりあえず、今日は帰ろうか。」
そう言われて、やっと動く気になった私。
「ま、とりあえずさ。高価な物には違いないけど、本当の所どれ位の価値かも判らないしさ。」
歩きながらもずっと考えている私に、ヤトは言葉を続ける。
「帰って、聞いてみたらいいじゃん。エルの家がそんなにお金持ちとはおいらもビビッタけどさ。ひょっとしたら、誰かから預かってるとか、何かの褒美で貰ったとかさ。聞いたらどうせ拍子抜けする様な理由だよ。」
「そっか・・・そうだよね。うん。何も家に有るからって買える訳も無いし。そっかぁ。」
なんだか、どうしてそんな高価な物がって色々パニックになってたけど、どう考えても家が裕福な訳は無いし、かといってこんなの誰かから盗んだりってそんな両親じゃないし。 まぁ、姉なら若い頃に喧嘩のカタに-って言われても納得するけどさ(笑
そう考えたら、なんか変に考え込んじゃったのが馬鹿らしくなって、笑いがこみ上げて来た。
「そうだよ。うちがそんなに裕福な訳ないじゃん。あはははは。」
安心したら、笑いが止まらなくなっちゃって、前を歩くヤトの背中をバンバン叩きながら歩く私。
「いてぇ、痛いってばさ、エ・・ル・・・・」
そう言いながら振り返ったヤトは、突然言葉を飲み込む。
「ん?どうしたの?」
そう聞いて、ヤトの顔を見る。ヤトは呆然として、動きを止めている。
「どうしたの?」
もう一度聞き返しながら、ヤトの視線の先を追おうと、振り返りかけた瞬間、いきなりヤトは私の手を引っ張った。
「きゃぁ!」
私は、不意に引っ張られて、そのまま前へと倒れこむ。
バキッ!
背後で、木の枝が折れる音がした。
「いったぁ~い。何よ、突然…」
そう言いながら、倒れた時に落としたナイフを拾いあげていると、ヤトが返事をした。
「に…にげ、にげげげげ…」
何を言ってるんだか…そう思って振り返ると、そこには、へたり込んでいるヤトと、そして-
グァァァァ!
そいつの雄たけびが、耳をつんざいた。