第一章:二人の研究(8) | Gift of Heaven ~神様の贈り物~

第一章:二人の研究(8)

「伝説では-人を湖に引きずり込む、怖い精霊だって言われていますが…」
 フィーはそこまで言って、慌てて付け加えた。
「でも、金髪で美しく、彼女を見た全ての人を虜にする魅力があると聞きます。そう、あなたの様に-そういえば、グレイグもパンとチーズが好きなんですよ。」

 彼女は楽しそうにその話を聞いていたが、不意に返事をした。
「ありがとうございます、そんなに私って魅力がありますか? でも-」
 少し寂しそうに、言葉を続ける。

「人を無理やり湖に引き込んだりはしません。人が、グレイグに魅せられて、自ら湖へと入っていく事はありますが-」

 不思議な事を言う方だ、と思った。まるで、知っているかのように…

「ふふふ、パンとチーズ、美味しかったです。」
 彼女は再び笑顔になってそういうと、その場に立ち上がり、歌を謳い始めた。

 とても綺麗な歌声で、聞いていると心が和む。フィーと共に、彼女の歌に酔いしれていた。
 不思議と、鳥達が彼女の元に集まってくる。歌声が鳥を集めているかの様に-

 彼女が歌い終えてから、私は彼女に声を掛けた。
「とても綺麗な歌ですね。感動してしまいました。本当に、お上手ですわ-」
「ありがとうございます。パンと、チーズをご馳走になって、歌も褒めていただいて-とても嬉しいわ。」
 彼女はにこやかにそういうと、言葉を続けた。

「あなたたちは、とても優しい方ですね。大変身勝手なんですけど、あなた達にもう一つ、お願いをしてもいいかしら?」
「なんですか?私達に出来る事なら。」
 フィーが、そう返事をすると、彼女は再び口を開いた。

「グレイグの伝説をしている人がいたら、湖に引きずり込んだりしない、と訂正して欲しいの。」
「えっ…でも、グレイグなんて、実際にはいないでしょう…?」
 突然のおかしな申し出に、私たちは顔を見合わせながら、彼女にそう聞いた。

 でも、彼女はそれには返事をせず、懐から綺麗な懐剣を取り出すと、こう告げた。

「この懐剣は、お礼にお二人に差し上げます。もし疑う人がいれば、この懐剣を見せれば納得するわ。」
「えっ…」
 突然-断る間も無く、懐剣を手渡されて、私達は再び困惑した。

「ありがとう、お願いね。」
 彼女はそう言うと、船へと小走りで戻っていく。
 フィーは「ちょっと待って-」と、彼女を追いかけようとしたが、彼女は小船に乗り込んだかと思うと-。
私達の見ている前で、霧の中に吸い込まれるようにして、姿を消した。

「私の名前は、グレイグ。人を傷つけたり、しないわ。お願いね-」
 最後に、彼女はそう言い残して。


「・・・不思議なお話でしょう?でも、本当なのよ。」
 エリスがそう告げた時、私は我に帰った。
 あまりに不思議な話すぎて、ぼーーっと聞き入ってしまっていたから。

「グレイグは、パンとチーズが大好きで、歌声も容姿も素敵な、優しい女性よ。
 ただ、人を湖に引きずり込む-という点だけは間違えているけど、伝説は、本当の事なの。」

 エリスの言葉に、嘘は無さそうだった。私は、そんな精霊-グレイグなら、是非一度あってみたいと思った。