第一章:二人の研究(9)
「あのね、エル。」
「でもっ・・・」
私は、なんと言われても、旅に出たかった。
勿論、旅は危険だろうし、私の考えている事が容易ではない事も判っていた。それでも、このまま町にいても、一生叶える事は出来ない。 危険でも、あてが無くても、まずは色々と旅をしながら、情報を集めないと。まずはそこから始めないと、何も出来やしない。
「あなたは、旅に出たい。そうよね。」
エリスが、優しく問い掛ける。
「そうよ、何度も言ってるじゃない!」
「でも、どこに行くかは決まっていない。」
フィーが、否定する。
「だからっ。どこに行くべきか、それを調べる為の旅に出たいの!」
「なにを調べて回るの? 具体的に言って御覧なさい。」
エリスが、質問をする。
「だからっ! 伝説の話を聞いて、精霊の事を調べて、どこに行けば遭えるかを・・・」
私は、何度も説明した同じことを再び聞かれて、いい加減イライラしながら返事を返していた。
フィーが、不意に問い掛けて来た。
「あのね、エル。いいかい? 今まで、精霊に会った人が何人いると思う?」
「でも、フィーとエリスは出会えたわ。」
「そう、僕たちは運が良かった。でもね、そこは精霊が出るなんて噂は無かったんだよ?」
「それがどうしたの?」
「判らないのかい? 伝説で言われている場所に、精霊がいるならば、もっと多くの人が出会えている。」
「そ・・・それは・・・でも、誰も信じてないだけかも知れないわ。」
私は口ごもりながら、推測して言うと、今度はエリスが問い掛けてきた。、
「伝説で言われている場所に、精霊がいるのなら、私たちのあの湖に伝説が無かったのはどうして?」
「・・・」
私は、そんな事は予想もしていなかった。ただ、伝説を追いかけていけば-多くは、間違いだったり、場所が判らなかったりするだろうけど、いつかは本物に出会えると思っていた。
「いいかい、エル。伝説は沢山聞く事が出来る。でも、殆どすべての人がそこには辿り着けないから、伝説は伝説として-ただの言い伝えとして残るんだよ。」
「・・・判んない。」
「だからね。もし、確実な伝説なんて物が有ったなら。 それは伝説じゃなくて、誰でも会う事が出来るただの名物じゃないかい?」
「・・・」
「誰もが会える訳じゃない。嘘や、曖昧な部分が沢山含まれている。 だから、殆どの人は会えない。それが伝説じゃないかい?」
「・・そ…そうだけど・・・」
なんだか、フィーに立て続けに難しい事を言われて、全部が判った訳じゃ無いけど、判りやすく説明してくれたので、随分と言いたい事は判ってきた。
でも…じゃあ、伝説に触れる事が出来るかどうかって、運があるか無いか、それだけの違いなの? 私はこんなにも伝説に触れたいと思っているのに…
「だけどっ! やっぱり、私は少しでも可能性があるならば、伝説を求めて旅がしたい!」
ふう、とため息をついて、エリスが返事をした。
「あのね、エル。エルくらいの年になれば、冒険者なんて普通にいるわ。でも、エルはずっと家の手伝いをして来たから、冒険の心得とか、狩猟の方法とか、食べる方法が無いでしょう? それでもね、その勉強をした後ならば、エルが冒険に出る事は反対じゃないの。」
「じゃあ、許してくれるの?」
「勘違いしないで。冒険者になるのは止めないわ、あなたが選びたい職業につけばいいと思う。アステリス(※長女)だって戦士を目指してるんだしね。でも、エルが伝説に触れたいから冒険者に、というなら、話は変わるの。」
「どうして? なんでなの? 冒険者は冒険者でしょう!?」
フィーが、横から口をはさむ。
「伝説を調べる為だろう? 伝説なら、町を出なくたって調べられるじゃないか。それから後で、冒険者を目指しても遅くは無い。」
「なにを言ってるの? こんな小さな町で、何が判るっていうの? 私は、伝説について一つでも多くの情報を知りたいの。こんな町じゃ、十分に調べられないわ!」
フィーとエリスは、私の言葉を聞くときょとんとして顔を見合わせた。