精霊:グレイグ
グレイグ
湖に棲むウンディーネ(女性の水の精霊の総称)。
月が出ている時に小船にのって遊んでいる。月が無い時は、湖の中で眠りにつく。
金髪でか弱い乙女の姿だが、けして侮ってはならない。人はその姿に魅了され、歌声に魅了され、湖へと引きずり込まれる。グレイグの棲む湖にはけして近づくな。また、グレイグが近くにいないと思っても、湖の近くではけして彼女の悪口を言ってはいけない。彼女はすぐに現れて、あなたは囚われてしまうだろう。
湖に赴く時は、パンとチーズを持って行くべきだ。命が惜しいのならば。グレイグに出会ってしまった時に、パンとチーズを差し出す事が、唯一見逃して貰う方法だ。
【モデルとした神話】
出 展:英国 ウェールズ伝承
名 前:グウレイグ/Gwraig 湖の貴婦人/Lady of the Lake グウラゲズ・アンヌーン/Gwraiges Annwn
容 姿:金髪で、青白い肌の美人。
属 性:湖の精霊
棲み家:森の中の湖に棲む。但し、湖の中ではなく、小船に乗っている事が多い。
知 能:人の言葉を理解し、弦楽器を弾く。医学の知識に優れている。
特 長:牛を数多く飼っている。金色の船にのって遊んでいる。歌が非常に得意。
好 物:パンとチーズが大の好物。
害 悪:パンとチーズを持っている事がばれると、すぐに欲しがる。与えないと、奪おうとする程。
また、彼女達に悪口を言うと、湖に連れ込まれる事もある。
対 処:基本的には温厚で、むしろ、パンとチーズを餌に、彼女達へ結婚を迫る人間も多い。
三度殴ると、悲しんで二度と姿を現さなくなるなど本来非常に臆病。
起 源:元々、ケルトの女司祭が湖で遊んでいただけ、という説が強い。
備 考:アーサー王の2本目の聖剣エクスカリバーを与えたのはグウレイグという説もあるが、他の説も多い。
第一章:物置のナイフ(6)
「おまたせ。次は、何するの? いつもの様に磨り潰すの?」
「ん、磨り潰してくれる? 全部じゃなくて-半分ほどで良いわ。」
「うん、判った。」
私は草を磨り潰す準備をして、エリスの隣に座ると、作業を始めた。
「エルトリア。さっきの話って何?」
エリスも作業を続けながら、私に聞いてきた。
「あ、うん…物置にあったナイフ…あれは、何なの?エリスの物?それとも、フィー(※エルトリアの父)の物?」
「ナイフ…? 物置になんてナイフは置いてないでしょ??」
「あったよ、これ…」
私は、勝手に持ち出した事を叱られないか、内心ビクビクしながらも袋から例のナイフを取り出して、エリスの前に差し出した。
「あ~、これね。良く見つけたわね~。でも、これはナイフじゃなくて懐剣って言うのよ。それ位知ってなさい。」
エリスは、まるでなんでもないかの様にその懐剣を受け取りながら、笑ってそう言った。
「懐剣…? エリスの物なの? それは、なに? どうしてそんなのが家にあるの?」
私は色々聞きたい事が次から次に浮かんで、一気にエリスにまくし立てた。
「これは、私の物だけど、フィーの物でもあるわ。二人で貰ったの。」
そう言いながら、愛しむように懐剣を眺めている。
「貰ったの? そんなに高価な物を? 誰に?」
「ふふふ~。知りたい? 当ててごらん。」
意地悪そうに返事をするエリス。
「ん…王女さま?」
「ブッブー! 外れ。」
「じゃあ……ん~~~…町長とか?」
「違うよ~。」
「え~~~…思いつかないよ、高価な物をくれそうな人って。エリスのお父さん?」
「全然違う~。うふふ。」
エリスは楽しそうに笑いながら、そう返事をした。
「わかんない、教えてよ。」
「え~、どうしよっかなぁ~。」
「そんなに意地悪しないで。ねぇ。」
「ん~、仕方ないなぁ。じゃあ、明日も真面目に手伝ってくれる?」
「えぇ……う~ん、でも、ヤトと約束してるの。」
「少しくらいなら、良いわよ。そうね、ヤトとは午前中に遊んで、お昼からは手伝ってくれるなら教えてあげよう。」
「う…うん、わかった。手伝うから、教えて。」
その懐剣の事はとても気になったし、遊ぶ気持ちにもなれなかったから、渋々承諾した。
「ふふ。これはね、グレイグに貰ったの。」
「グレイグ? グレイグって…誰?」
「あなたも知ってるわよ。ふふふ。」
グレイグ…??そんな人、いたっけ?
「思い出せないや、フルネームはなんて言うの?」
「フルネームがグレイグよ。聞いた事は有るでしょう?」
「え~、そんな知り合い、いないよ。」
「有名だから、名前は知ってるでしょう?」
グレイグ…グレイグ…??
「やっぱり判んないよ、ヒント頂戴~。」
「ヒント?そうね、ウンディーネって呼ばれる事もあるわね。」
「は? ウンディーネって、あのウンディーネ? グレイグって…はぁ?」
「クスクス、そのグレイグよ。」
「もぅっ! そんな事ある訳無いじゃない。冗談言ってないでほんとの事教えてよっ!」
そりゃ、確かにそのグレイグなら知ってるわ。グレイグ、金色の髪の美人。船遊びが好きな、若い女性。
確かにこの剣を彼女が持っていても不思議じゃあ無い。けど…
「でも、本当なのよ。お昼に招待したら、音楽を披露してくれて。お上手ねって褒めたら、これをくれたの。」
「ねぇ、それ、マジメに言ってるわけ?」
私は呆れて、そう聞き返した。
「そりゃあ、もう、大真面目よ。嘘だと思うなら、フィーに聞いてごらんなさい。」
思いがけず、マジメな顔でそう言われて、私はちょっと怖気づいた。
「う…でも、そんなの信じれる訳無いじゃない…フィーに聞けば判るのね?」
「うん、聞いておいで。うふふ。」
私は立ち上がって、フィーの作業部屋に行くと、フィーに話し掛けた。
「ねぇ、フィー。 グレイグに会った事、あるの?」
「ん? 突然どうしたんだい、エル。」
「だーかーらー。グレイグに会って、懐剣を貰った事、有るの?」
「ん? あぁ、あの懐剣ね。そうだよ、グレイグに貰ったんだ。綺麗だろう?」
「ねぇ、グレイグってどこの人なの?」
「なにを言ってるんだい、グレイグっていやぁ、あの湖のグレイグしかいないだろう。」
「金髪の? パンとチーズが好きな?」
「そうだよ。エル。悪いんだけど、ちょっと今、手が話せなくて…続きはエリスから聞いてくれるかな?」
作業を続けながら、フィーはそう言った。
「ね、本当に本当なの? 嘘だったら、酷いわよ?」
私はやっぱりとても信じられなくて、もう一度フィーにたずねた。
フィーは、やれやれ、という感じで手を止めると、私の方を見て言った。
「本当だよ。懐剣は、見ただろう? あんな懐剣を持っている人がいると思うかい? グレイグは、話の通りの人だったよ。エルは、僕の事も、エリスの事も、どちらも信じられないのかい?」
マジメにそう言われて、言い返す事が出来なかった。確かに、本当にグレイグから貰ったなら…納得もいくけど…
「ごめんなさい…信じられない訳じゃ無いけど…」
「ふふ、まぁ、いきなり信じろって言っても疑うのは当然だよね。でも、信じて欲しい。嘘じゃないよ。さ、それで良いかな? 良ければ、続きはエリスに聞くか、後にして欲しいんだけど…」
「うん…判った。ありがとう。」
グレイグ。湖にいるという精霊。精霊が本当にいるなんて、信じられないけど…でももしそれが本当だとしたら、怒らせたら湖に引きずり込まれ、二度と帰れなくなる、という、怖い精霊。どうしてそんな精霊から懐剣を貰う事が出来るのか…
私は、不思議に思いながらエリスの所に戻った。
第七話に進む (23日AM1:00公開予定)
人物:シオン=エリスティー=ヴィジェル
シオン=エリスティー=ヴィジェル : 通称エリス
ヴィジェル家の母。
年齢は46歳、身長は平均的、ウェーブの美しい黒髪長髪。
現在は薬剤師をして医者の様なことをしながら、夫の研究をサポートしているが、元々は植物の採取などをして生活していた。夫との出会いは、森の中。
見た目は大人しそうで、着飾れば、元は深窓のお嬢様-という感じだが、実はお喋りで明るく、結構行動的で、ざっくばらんな一面もある。
職 業:薬剤師・母
好きな物:夫、料理、読書。
嫌いな物:争いごと、道徳に外れる事。
特 技:料理の腕前と、自然に関する知識は一級品。
特記事項:出身地はこの国らしいが、詳しくは不明。
第一章:物置のナイフ(5)
っぷはぁ~、はぁ、はぁ、はぁ、、、
ヤトは肩で息をして、その場から動けずにいた。
そりゃ、そうだろう。全速力で走った後、すぐにスライムの襲撃なんて受けちゃ…
でも…今のは、なんだったんだろう…
確かに、スライムはそこにいた。けど、ナイフを突き刺した途端、みるみる内に小さくなって、そして、消えてしまった。どうして?
はぁ、はぁ、はぁ、、、
ヤトはまだ回復できずにいた。
私は、その場にへたり込んで、今あった事を考えていた。
暫くして、やっとヤトが声を出す。
「はぁ、はぁ、、、今、、、なにを、、、したんだ?」
「何って…スライムに、ナイフを突き刺しただけだよ。」
そうとしか、答えようが無かった。
「なんで…スライムが消えたんだ?」
「・・・知らない。」
「それに、なんか、光って見えたけど、あれはなんだったんだ?」
「・・・判らない。」
「ナイフを刺しただけで、スライムが消えるわけないだろう?」
「・・・でも、消えたよ?」
「…いったい、どんな魔法を使ったんだ? お前、魔法なんて使えたのか?」
「何よ、私はナイフを刺しただけだもん。そんなの、このナイフに聞いてよ!」
私だって訳が判らないのに、どんどんと質問をされて、少しむっとしながらヤトにナイフを突き出して答えた。
暫くの沈黙。やがて、ヤトは立ち上がって、ナイフを受け取った。
「凄いな、このナイフ。このナイフ自体に、魔法でも掛かってるんだろうか。」
「…どうだろ。」
「これは、ひょっとするとひょっとして、本当に凄いナイフみたいだよな。」
「…うん…」
「なぁ、家に帰ったら、ナイフの事、聞くんだろう? 判ったら教えてくれよ。」
「うん、そのつもり。ナイフの事、判ったら、ヤトにも教えるよ。」
「頼むよ。面白そうだし。」
「うん。もぅ、帰ろう。今日は。」
私はもう色々ありすぎて、早く一人になりたかった。また、早くこのナイフの秘密を聞きたかった。
その後は、二人ともあまり会話をせず、真っ直ぐ家に帰った。
「じゃ、エル、また明日。」
「うん・・・ナイフの事、今日、聞いておくね。じゃ。」
ヤトはあれから、私に気を使ってナイフの事に触れなかったけど、なんだか今日はヤトにも申し訳なくて、せめてナイフの事が判ったら、ヤトには絶対教えなきゃ-と思ったので、そう告げてわかれた。
「ただいまぁ~。」
「エルゥ!? 早かったじゃない。 勿論、今日サボった事、怒られるのを覚悟して帰ってきたんでしょう?働いて貰うわよ? 夕飯までまだ時間もあるし-」
エリスティー…母は、かなり怒った口調でそう告げた。
「うん、判ってる…でも、エリスに聞きたいことが有るの。」
エリスは、不思議そうな顔でこちらを見返しながら、返事をする。
「聞きたい事? うん、別にいいけど、じゃあ取りあえずそこにあるカゴの草を洗って。その後、仕事しながら話しよう。それで、いい?」
私の気持ちを察してくれたのか、幾分柔らかい口調でそう言った。
「うん、ありがと。」
私はそう言うと、かごを受け取って洗い場に行った。
薬にする草を丁寧に洗いながら、ナイフの事、どう話そうか考えてた。
勝手に持ち出した事、怒るかな。高価なナイフだし…それにしても、なんでスライムは消えたんだろう。このナイフに、どんな秘密があるんだろう。なんで、そんなナイフが家にあるんだろう。
「エル、まだ洗い終わらない?」
「あ、もう終わる~。ちょっと待ってて。」
私は急いで洗い終えると、軽く水を切って、エリスの所に戻った。
怪物:スライム
スライム
アメーバ状の原始生物で、肉食。知性は全く無く、生物とみればなんでも襲う。視覚・聴覚・痛覚などが無く、振動で生物の存在をしる。但し、じっとして息を殺しても、心臓の動きでばれてしまう。剣や打撃によるダメージは利きにくい。
通常、スライムと言った場合はグリーンスライムを指し、森の木の上に棲む。生物が下を通り過ぎると落ちてきて、顔にへばりつき、相手が窒息するのを待つ。窒息死して動きが止まると、鉱石以外のあらゆる物を溶かす融解液を分泌し、相手を溶かして吸収する。ある程度成長すると、分裂増殖する。弱点は炎で、炎を近づけると逃げる。また、剣で切り刻む事は出来、多少のダメージは与えられる物の、切った先からくっ付く為何度も繰り返し切り刻まなくては倒せない。
グレイスライムは洞窟に棲み、性質はグリーンスライムと全く同じ。但しこちらは一部毒をもっている場合があり、若干手ごわい。
ブラックスライムは沼に棲み、近寄った物に毒液を浴びせて捕食する。グリーンスライムと異なり、生物に接するとすぐに融解液を分泌し始める。弱点は同じく炎だが、多少の耐性を持つ。その溶解液は強力で、鉱石すら腐食させる。
ブルースライムは湖に棲み、捕食した相手をそのまま体内に飲み込み、比較的ゆっくりと溶かす。溶解液は最も弱く、骨などの固形物は溶かせない。やはり炎が弱点だが、多少の炎なら消してしまう上に、打撃・剣撃では一切ダメージを与えられない。唯一、分裂増殖はせず、際限なく大きくなる。
イエロースライムは荒野や山肌に生息し、スライム系としてはかなりの変り種で、溶解液も出さなければ毒も吐かないが、身体をぶつけて攻撃してくる。力は強い。また、生物に取り付き、体液を吸収する。炎が利かず、逆に打撃・剣撃が利く為、名前・姿形・性格などはスライムそのものだが別種と考えられる。
他に、レッドスライムと呼ばれる種類もいるようだが、これは詳細が不明。
【モデルとした神話】
出 展:RPGオリジナル。:ハイドライド、ドルアーガの塔など
名 前:スライム/Slime
容 姿:アメーバ状原生生物
属 性:原生生物
棲み家:洞窟に棲み、生物と見れば襲い掛かる。
知 能:無い。
特 長:住処によって体色を変える。また住処によっては毒性を持つ。分裂増殖。
好 物:恒温動物全て。
害 悪:突然襲ってきて、窒息させる。
対 処:炎に弱い。
起 源:HPラヴクラフト作クトゥルフ神話に出てくる人工生物体ショゴス/Shoggoth が最も近い。
備 考:ドラゴンクエストシリーズのスライムは非常に特殊。