Gift of Heaven ~神様の贈り物~ -6ページ目
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第一章:物置のナイフ(1)

こんにちわ、シオン=エルトリア=ヴィジェルです。
私の冒険の切っ掛け-そう、あれは、いつもの昼下がりでした。物置で綺麗なナイフを見つけた事が、全ての始まり。そして…



「エル、待ちなさい! エルトリア!」
 当然、私は振り返りもせずダッシュで逃げる。いくらなんでも待てと言われて素直に待つなら、最初から逃げないっていうの。

何故私が逃げてるかって? それは、家業を手伝うのがしんどいからに決まってるでしょ。 家に居たら決まって色々手伝わされるんだもん。

 母には薬草を挽いたり、干したりする手伝いをさせられて、手がとんでもなく臭くなるし(洗っても取れないんだよ!)、父は父で鉱石を潰したり、炉の火の番をさせられたり…私はか弱い女の子だってのに、肉体労働なんてさせないで!
 と、物置に隠れてサボってたら、とても綺麗なナイフを見つけたから…やっぱり、こういうものって見つけたら試しに使ってみたくなるってのが、好奇心旺盛な少女のサガって物でしょう。



「ヤト、迎えに来たよ!」    私はヤトの家に入ると、2Fに向かって声を掛けた。
「エルか? またサボりかよ。」 2Fから顔だけ出して返事が帰ってくる。
「折角迎えに来てあげたのに。1人で行っちゃうよ~。」意地悪く言って、表へ出る。
「お、おい、ちょっと待ってくれよ!」慌てて追いかけてくるヤト。

ヤトの家は、商人をして稼いでいる。忙しい日はヤトも店を手伝わされたりしているけど、週に5日はぶらぶら遊んでいるので、早い話がする事が無くて暇なんだ。

「はぁはぁ、、、やっと追いついた…」
「おそかったじゃない。」横目でチラリと見ながら声を掛ける。
「だって着替えも何もしてなかったんだぜ。待ってくれって言ったのに。」
身振りを交えて大げさに言うヤト。呆れて足を止めた私は、彼の方に振り向いて、彼の目を見つめながら呟いた。
「こんな時間まで寝てたって言うの? 相変わらずねぇ・・・」
「そ…そりゃ……それより、今日はどこ行くよ?」
バツが悪そうに言葉を濁して、話題を変えたヤト。

「森に行こうと思ってさ。」私は再び歩きながら返事をした。
「え~、またかよ。スライムもいるし、前みたいに怪物に追いかけられるのは嫌だぜ。」
「だいじょーぶ、今日はそんなに奥に行かないからさ。」
「そうやっていつも言うけどさ、言った通りの試しが無いじゃん。」
「えへへ~、そうだっけ? ま、細かい事気にしないの! 男でしょ!?」
「そういうお前は無頓着過ぎるんだよな。」

そうしていつもと同じ会話を交わしながら、森へと向かっていった。

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人物:シオン=エルトリア=ヴィジェル

シオン=エルトリア=ヴィジェル : 通称エル

 ヴィジェル家の次女。年齢は16歳、身長は低めで、長く、軽いウェーブの掛かった黒髪。
 少女のあどけなさを残しつつも、好奇心は旺盛で活動的。

 いつも家業の手伝いを嫌い、逃げ出しては一つ年下のヤト(♂)と遊び歩いている。

  職 業:家業手伝い・次女
 好きな物:クリームシチュー、小動物、自然。
 嫌いな物:家事・家業手伝い、お説教、勉強。

  特 技:両親から逃げる事。
 特記事項:特に無し。

人物:ヴィジェル家血族-

 ヴィジェル家では、代々生まれてくる女性にはシオンの名をつける事が慣わしとなっている、女性血族の血筋。
 この為、家族や友人、知人などはミドルネームで呼ぶ(世間一般ではファーストネームで呼ぶ事が多い。またミドルネームを持たない人も非常に多い)。
 祖父、祖母の事は、両親とも話した事も無く、聞いた事も無い為不明。
 比較的近い先祖にエルフの血が流れていると言うが、詳しくは聞いていない。

父:フェイタル=イコマ=ヴィジェル : 通称フィー
母:シオン=エリスティー=ヴィジェル : 通称エリス
長女:シオン=アステリス=ヴィジェル : 通称アス、戦士見習中。
次女:シオン=エルトリア=ヴィジェル  : 通称エル、本編主人公。

プロローグ /prologue

その時、世界は平和の内にあった。
町には様々な店が軒を連ね、広場は活気に溢れて、人々は安らかな人生を送る事が出来た。

国同士の小競り合いはあったが、その世界には怪物が生息しており、人同士の争いよりも怪物の討伐に追われていたので、大きな戦争も起きなかった。

どこの世界にもいる、小悪党や盗賊は数多くいたが、命を奪われる様な事は殆どと言って良いほど少なかった。

世界には怪物たちも多く棲んでいたが、集団で居る者達を襲うほどの事は滅多に無く、強い怪物ほど深い森や洞窟の奥に棲み、人は、町の中にいる限り安全だった。

血気盛んな若者達は怪物の討伐をゲームの様に楽しみ、腕に覚えのある戦士達は街道を行く商人達の護衛を生業として生活していた。


この世界には、幾つかの伝説が伝えられていた。
誰も登った事が無い山の頂上に棲むドラゴンの伝説。世界を作った神々同士の争いの伝説。深い森に潜むと言う精霊たちの伝説。どこかに存在すると言う神聖な武器の伝説。
見たと言う人、話を聞いたと言う人はいるが、どの話も信憑性に欠け、絵空事の様にも聞こえた。中には、それらの伝説を信じ、解明しようとする冒険者達も多くいたが、どこまでが本当でどこまでが嘘かは誰にも判らなかった。

その中で唯一つ、異色の伝説があった。
この世界には、星の欠片と呼ばれている、不思議な玉石が存在した。綺麗に磨き上げられた、色とりどりの玉石達。その表面には、文様と思える物が浮き出ていた。誰もがこの玉石を、人が作った物とは信じられなかった。
明らかに人の手が加えられたその玉石だが、地上に存在する他の全ての石とは異なる、その不思議な輝きは、誰の手にも作る事が出来なかった。文様が何を意味するのか、説明出来る者は居なかった。何故世界に散らばっているのかも、誰にも判らなかった。

いつしか、こんな話がまことしやかに囁かれた。星の欠片を全て集めた者には、どんな願いも叶えられるだろう-と。 その伝説を、人はこう呼んだ。
「Gift of Heaven.」・・・神様の贈り物、と。

第一章:物置のナイフ(1)
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