Gift of Heaven ~神様の贈り物~ -2ページ目

第一章:二人の研究(10)

フィー。
「なぁ、エル。僕たちが仕事の合間に、何の研究をしているか、知らないのかい?」
「知らないわ。なんの関係があるの?今、関係無いじゃない!」


エリス。
「ねぇ、聞いて、エル。この町で、書物を置いている家って何軒あるの?」
「えっ…それは・・・うちと、町長さんの所と、そう、ヤトの所にもあるけど・・・家が、一番多い?」


 問われて、初めて気づいた。本なんて、勉強は嫌いだし読むのが面倒で、もう何年も見ていない。

再び、フィーが口を開いた。

「うん、ヤトの所は売り物だったり、商売の知識だったりだよね。町長さんの所は、町に関する文献が沢山ある。それ以外で本を置いているのは家だけだけど、じゃあ、家の本は何の本だか、見た事があるかい?」
「え…」
 そういえば…何の本が置いてあるんだろう… たしか…小さい頃に見た本は…


「…もしかして、精霊の本?」

「やっと気づいたかい? エルは興味も示さなかったから、いい忘れたのかどうか判らないけど、僕たちが研究しているのは伝説についての研究なんだよ。」
「そんな…」
 なんで今まで知らなかったのか。いつも、二人で研究を続けていたのを知っていたのに。


「言っておくけど、伝説なんかの研究をしているのは、この国じゃ僕たち位のものだよ。だって、誰も本当の事とは信じていないからね。」
「なんで?なんでそんな研究を始めたの?」


 その問いかけには、エリスが答える。

「それは、私たちがグレイグと出会ったからよ。もっと色々知りたくて、趣味で始めたの。エルと一緒よ。」
「そうだったんだ・・・」

「だから、エル。伝説を調べる為と言うなら、旅に出るのは許可出来ない。その必要が無いからね。」
「そうよ。明日から、家の仕事をきちんと手伝いなさい。そうすれば、伝説の研究も、一緒に出来るわよ。」
 フィーとエリスが、交互に言う。


「そ…ぅなんだ・・・」
 私は、顔が引きつっていた。

ずっと、旅に出るのを駄目って言われているんだと思った。違うんだ。
というより、フィーとエリスがそんな研究をしていたなんて。私もそれを知りたいと思うなんて。。。


「どうする、エル。伝説を調べる為に、私たちを手伝うか-それとも、ただ当てもなく冒険者になるか。」
「・・・手伝わせて。」
 私は、それまで自分が知らなかった事が恥ずかしく、照れながらそう返事をした。


「いいわ。 じゃあ、エルトリス。そうと決まったら、明日からはビシバシと仕事にもこき使うからね!」
 エリスが強い口調できっぱりと言う。

「えぇっ・・・」

「口答えはしない! エルトリス、君は伝説を調べて、それだけで満足はしないだろう?」
「え?」
「きっと、君ならその後は、自分の目で見たいと思うはずだよ。」
 今度はまじめな顔でフィーが断言する。


「う…うん、そりゃそうだけど、それが?」
「その為に、エリスの持っている薬草の知識や、僕の狩りの手法とかも、勉強しておかないと駄目だろう。一石二鳥じゃないか。」
「う……」
 私は、結局その条件で、家の手伝いと、研究と-沢山こき使われることになってしまった。

 なんか、うまく言いくるめられた様な…気がする…

第一章:二人の研究(9)

「あのね、エル。」
「でもっ・・・」


私は、なんと言われても、旅に出たかった。
勿論、旅は危険だろうし、私の考えている事が容易ではない事も判っていた。それでも、このまま町にいても、一生叶える事は出来ない。 危険でも、あてが無くても、まずは色々と旅をしながら、情報を集めないと。まずはそこから始めないと、何も出来やしない。


「あなたは、旅に出たい。そうよね。」
 エリスが、優しく問い掛ける。


「そうよ、何度も言ってるじゃない!」
「でも、どこに行くかは決まっていない。」
 フィーが、否定する。


「だからっ。どこに行くべきか、それを調べる為の旅に出たいの!」
「なにを調べて回るの? 具体的に言って御覧なさい。」
 エリスが、質問をする。


「だからっ! 伝説の話を聞いて、精霊の事を調べて、どこに行けば遭えるかを・・・」
 私は、何度も説明した同じことを再び聞かれて、いい加減イライラしながら返事を返していた。


 フィーが、不意に問い掛けて来た。

「あのね、エル。いいかい? 今まで、精霊に会った人が何人いると思う?」
「でも、フィーとエリスは出会えたわ。」


「そう、僕たちは運が良かった。でもね、そこは精霊が出るなんて噂は無かったんだよ?」
「それがどうしたの?」


「判らないのかい? 伝説で言われている場所に、精霊がいるならば、もっと多くの人が出会えている。」
「そ・・・それは・・・でも、誰も信じてないだけかも知れないわ。」


 私は口ごもりながら、推測して言うと、今度はエリスが問い掛けてきた。、

「伝説で言われている場所に、精霊がいるのなら、私たちのあの湖に伝説が無かったのはどうして?」
「・・・」

 私は、そんな事は予想もしていなかった。ただ、伝説を追いかけていけば-多くは、間違いだったり、場所が判らなかったりするだろうけど、いつかは本物に出会えると思っていた。


「いいかい、エル。伝説は沢山聞く事が出来る。でも、殆どすべての人がそこには辿り着けないから、伝説は伝説として-ただの言い伝えとして残るんだよ。」
「・・・判んない。」


「だからね。もし、確実な伝説なんて物が有ったなら。 それは伝説じゃなくて、誰でも会う事が出来るただの名物じゃないかい?」
「・・・」


「誰もが会える訳じゃない。嘘や、曖昧な部分が沢山含まれている。 だから、殆どの人は会えない。それが伝説じゃないかい?」
「・・そ…そうだけど・・・」


 なんだか、フィーに立て続けに難しい事を言われて、全部が判った訳じゃ無いけど、判りやすく説明してくれたので、随分と言いたい事は判ってきた。
 でも…じゃあ、伝説に触れる事が出来るかどうかって、運があるか無いか、それだけの違いなの? 私はこんなにも伝説に触れたいと思っているのに…


「だけどっ! やっぱり、私は少しでも可能性があるならば、伝説を求めて旅がしたい!」

ふう、とため息をついて、エリスが返事をした。


「あのね、エル。エルくらいの年になれば、冒険者なんて普通にいるわ。でも、エルはずっと家の手伝いをして来たから、冒険の心得とか、狩猟の方法とか、食べる方法が無いでしょう? それでもね、その勉強をした後ならば、エルが冒険に出る事は反対じゃないの。」


「じゃあ、許してくれるの?」

「勘違いしないで。冒険者になるのは止めないわ、あなたが選びたい職業につけばいいと思う。アステリス(※長女)だって戦士を目指してるんだしね。でも、エルが伝説に触れたいから冒険者に、というなら、話は変わるの。」

「どうして? なんでなの? 冒険者は冒険者でしょう!?」


フィーが、横から口をはさむ。
「伝説を調べる為だろう? 伝説なら、町を出なくたって調べられるじゃないか。それから後で、冒険者を目指しても遅くは無い。」
「なにを言ってるの? こんな小さな町で、何が判るっていうの? 私は、伝説について一つでも多くの情報を知りたいの。こんな町じゃ、十分に調べられないわ!」


フィーとエリスは、私の言葉を聞くときょとんとして顔を見合わせた。

第一章:二人の研究(8)

「伝説では-人を湖に引きずり込む、怖い精霊だって言われていますが…」
 フィーはそこまで言って、慌てて付け加えた。
「でも、金髪で美しく、彼女を見た全ての人を虜にする魅力があると聞きます。そう、あなたの様に-そういえば、グレイグもパンとチーズが好きなんですよ。」

 彼女は楽しそうにその話を聞いていたが、不意に返事をした。
「ありがとうございます、そんなに私って魅力がありますか? でも-」
 少し寂しそうに、言葉を続ける。

「人を無理やり湖に引き込んだりはしません。人が、グレイグに魅せられて、自ら湖へと入っていく事はありますが-」

 不思議な事を言う方だ、と思った。まるで、知っているかのように…

「ふふふ、パンとチーズ、美味しかったです。」
 彼女は再び笑顔になってそういうと、その場に立ち上がり、歌を謳い始めた。

 とても綺麗な歌声で、聞いていると心が和む。フィーと共に、彼女の歌に酔いしれていた。
 不思議と、鳥達が彼女の元に集まってくる。歌声が鳥を集めているかの様に-

 彼女が歌い終えてから、私は彼女に声を掛けた。
「とても綺麗な歌ですね。感動してしまいました。本当に、お上手ですわ-」
「ありがとうございます。パンと、チーズをご馳走になって、歌も褒めていただいて-とても嬉しいわ。」
 彼女はにこやかにそういうと、言葉を続けた。

「あなたたちは、とても優しい方ですね。大変身勝手なんですけど、あなた達にもう一つ、お願いをしてもいいかしら?」
「なんですか?私達に出来る事なら。」
 フィーが、そう返事をすると、彼女は再び口を開いた。

「グレイグの伝説をしている人がいたら、湖に引きずり込んだりしない、と訂正して欲しいの。」
「えっ…でも、グレイグなんて、実際にはいないでしょう…?」
 突然のおかしな申し出に、私たちは顔を見合わせながら、彼女にそう聞いた。

 でも、彼女はそれには返事をせず、懐から綺麗な懐剣を取り出すと、こう告げた。

「この懐剣は、お礼にお二人に差し上げます。もし疑う人がいれば、この懐剣を見せれば納得するわ。」
「えっ…」
 突然-断る間も無く、懐剣を手渡されて、私達は再び困惑した。

「ありがとう、お願いね。」
 彼女はそう言うと、船へと小走りで戻っていく。
 フィーは「ちょっと待って-」と、彼女を追いかけようとしたが、彼女は小船に乗り込んだかと思うと-。
私達の見ている前で、霧の中に吸い込まれるようにして、姿を消した。

「私の名前は、グレイグ。人を傷つけたり、しないわ。お願いね-」
 最後に、彼女はそう言い残して。


「・・・不思議なお話でしょう?でも、本当なのよ。」
 エリスがそう告げた時、私は我に帰った。
 あまりに不思議な話すぎて、ぼーーっと聞き入ってしまっていたから。

「グレイグは、パンとチーズが大好きで、歌声も容姿も素敵な、優しい女性よ。
 ただ、人を湖に引きずり込む-という点だけは間違えているけど、伝説は、本当の事なの。」

 エリスの言葉に、嘘は無さそうだった。私は、そんな精霊-グレイグなら、是非一度あってみたいと思った。

第一章:二人の研究(7)

「どう、信じる気になった?」
「う…ん…。でも。」
 嘘はついていない様だけれども-それでもまだ納得出来た訳じゃ無い。

「でも、なに?」
「グレイグって…人を湖に引き込む精霊でしょう?」
「言い伝えでは、そう言われているわね。」
「じゃあ、なんでそのグレイグに懐剣なんて貰えるわけ?」

 そう、私にとって、グレイグとは怖い精霊のイメージしかない。
 いや、私だけじゃなく、誰でもそうだろう。そう、伝説では言われている。

「ふふ。何も伝説が本当の事とは限らないわ。懐剣を貰った時の話をしてあげましょう-」

 そういって、エリスは昔話を始めた。


・・・そう、あれはまだ、フィーと知り合って間もない時だった。
いつもの様にフィーと共に、狩猟の為に森に入った。

湖についた時、最初に気付いたのはフィーだった。

「おや、あんな所に船が…」
 そう、指差した先には、綺麗な小船が浮かんでいた。
 一人の金髪の女性が船には乗っていて-不思議な事に、鳥たちが集まっていた。

 二人は、その幻想的な雰囲気に、思わずその場で見惚れてしまった。

「どうか、されましたか?」
 ふいにこちらを向いたかと思うと、透き通った声で声を掛けられた。

「いえ、すみません、鳥を手なずけられるなんて、凄いですね。思わず見とれてしまって…」
 私は慌てて、そう返事を返した。

「ふふふ、この鳥達は私の友達だから-」
 そういって、にこやかに笑う彼女。

「もし、宜しければお昼を一緒に如何ですか? パンくらいしか無いですけど-」
 そう声を掛けると、彼女はとても嬉しそうに、えぇ。と返事をすると、船を岸につけて降りて来た。

「ありがとうございます。チーズは、あるのかしら?」
 随分と遠慮の無い人だな、と、少し違和感を感じながらも、有りますよ、と返事をすると、彼女は手を叩いて喜んだ。

「嬉しい。私、パンとチーズがあれば他に何もいらないくらい、大好きなんですよ。」

私達はお弁当を囲み、談笑した。
「こんな事いって、気を悪くしないで下さいね。」
 不意にそう前置きをして、フィーが言った。

「最初、あなたを見たとき、こんなモンスターも出る森の奥で小船にのっているなんて-
 伝説のグレイグに出会ってしまったのかと思いましたよ。」
 彼女は、クス、と笑うと、
「伝説の、グレイグってどんな方なのですか?」
 と聞き返してきた。

人物:フェイタル=イコマ=ヴィジェル

フェイタル=イコマ=ヴィジェル : 通称フィー/本人は女性っぽい呼び名(フィー)を嫌がり、フェイと呼んで欲しがっている。


 ヴィジェル家の父(※ヴィジェル家は女性血族家族である為、彼の旧姓はダ・ケフィル)
 年齢は44歳、身長は平均的、ストレートの長髪こげ茶毛を束ねている。
 (この世界では男性でも長髪は多い。主に戦士系の職業の者は短髪にする。)


 現在は錬金術に勤しみ、鍛冶屋に売る鉄などの材料を精製して稼ぎながら、研究を続けているが、元々は狩猟をして生活していた。妻との出会いも、狩猟中との事。
 この為、いつもは優しい父だが力は強く怒らせると怖い。あまり自分の事は喋らない。


  職 業:錬金術師・父
 好きな物:妻、娘、妻の作る料理なら全て、研究。
 嫌いな物:争いごと、嘘。

  特 技:剣技は非常に優れた腕前と言われるが、娘が生まれてからは人前で剣を持ったことが無い。
 特記事項:出身地不明。何の研究をしているのか、娘も知らない。